無知が故に 幸福の十年
知恵を持つが故に 放浪の十年
刹那が故に 充実の十年
俺はそんな時代を生きてきた。
私が生まれた記念日に 言葉少なに隊長がそう言った。
なにが言いたいのだろうと 見上げた私の瞳を見て
お前の十年はどうだった?
そう聞いてきた
まるで何かを求めるように
環境から言って 幸せだったとは決して言えない
生まれた地も知らず 生まれた証も消され
誰も自分を証明できない異邦人
けれどそれが不幸だったとも 思えない
持たないが故に 護るものにあこがれた
そんな十年 と いおうとしたら彼はとても照れくさそうに
初めての十年 そんな重いものを感じるんじゃない
そう言って私の髪をなでた
嘘ではなく 大げさでもなく
小さな小さな腕だけれど 父も母も
勿論貴方もだけど 精一杯この腕延ばしてみようと思った
決して護れるものではないけれど 力になろうと思ってきた
それでは これからどうする?
そんな声にふと考えた
興味深げに更にのぞき込んだ その顔を軽く押しのけると
答えもせずに立ち上がる
答えたのなら嘘になる なにより自分に力がないから
だから
今は言わずに力を得よう 次の十年果たし続けて
十年後の今日に 叶えたはずのその言葉言えるよう
歩むが故に 安息の十年
貴方がそうだったと言ってくれるための十年だと
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