色褪せし幻想

-3-

 ガッ! ギンッ!

 もう何度目の攻撃だろうか。
 菖蒲色の神威・改に振り下ろされる白刃は、同じだけの、いやそれ以上の鋭さを以って大神の心を切りつける。
 血を吐きそうだった。
 それでも切りつける。何度も、何度も、何度も!

 なぜだ? なぜこんなことになってしまったんだ!?
 護りたかったはず。助け出したかったはず。
 決して……決してこんなはずでは……!

 自分は何をしているのだろう?
 かけがえのない仲間たちを次々と死に追いやり、自分もまた、大切な人に刃(やいば)を向けて何をしているのだ?

 戻れない。すべてを失うことになったとしても、振り向くことなんてできはしない。でも、一体それは何のために?

 大義のため。

 義とは、正義とは何だ?

 罪なき人々を護ること。

 では彼女たちはどうなんだ? 彼女たちこそ、自分が護るべき存在ではないのか?

 キィンッ!
『敵が現れたから戦うだなんてこと、一体いつまで続けるの?』
『へ……あたいには、それしか能がねえからな』

 ガシッ!
『あたしたちのやってきたことは無意味だったんでしょうか?』
『ウチらに一体何ができるっていうんや?』

 グァンッ!
『幸せになれないんだったら、アイリス、がんばれないよ!』

 刀を機体に打ちつけるたび、大神の耳にその音は届かずに、少女たちの声だけが脳裏に響く。

 何のためにここまできたのか。何のためにこうまでしてきたのか。
 二本の小太刀を振るうたびに、魔操機兵の装甲が拉げ、降魔の血肉が飛び散った。
 この手が血に塗れるのが怖いのではない。自分は軍人だ。そうしなければならないことなどわかっている。
 しかし、彼女たちはどうだ?
 戦いとは無縁であるべき少女たちを戦場へ引き摺り出し、危険に身を晒させ、あまつさえその白き手を真っ赤に染め上げさせた結果がこれか!

(そしてあやめさん……。この人が何をしたというんだ!?)

 大神は声なく叫び、刀を振るう。
 降魔殺女にではなく、飽くまで彼が慕った藤枝あやめに。





 凄まじい勢いの大神の攻撃を受け止め、弾き返しながら、殺女は言い知れないざわめきに襲われていた。
 まだ大神と出会って間もない頃、一度だけ手合わせしたことがあったが、あの時とは比べ物にならないほどの威力で打ちつけてくる。
 彼は強くなった。
 わかっていたはず。いつか自分を超えてゆくだろう、と。男とはそういう生き物だから。
 それを心待ちにしながらも、どこかでそれを恐れていたのだろうか。

(恐れる? この青い男を?)

 そうだ。大神のまっすぐな心意気を痛いとすら感じていた。

(それはあの人と同じだからかしら?)

 きっとそう。大神が熱く語る時、その瞳はかつてのあの人のものと同じだった。
 でも大神はあの人とは違う。この青年は決して闇に取り込まれたりはしなかった。

 ああ、なぜあの人は大神のようになれなかったのだろう。それがあの人の弱さ、なのか?
 弱さに打ちのめされ、力に魅入られたあの人……。
 自分のせい? 支え切れなかった自分のせい?

(だから私はこの男を妬んでいたと?)

 妬んだ? 大神があの人よりも強かったから? よく似ている二人なのに?
 いいえ、あの人は大神なんかとは違う。だって自分だけを見てくれるもの!
 でも……この胸騒ぎは、何?

(私は後悔しているの?)

 何かを得るということは、何かを失うということ。
 自分はあの人の隣で愛を歌い、世界は彼の足元に跪こうとしている。
 彼と共にゆく新たなる生を得た自分が失ったもの。
 ……光? いいえ、何を悔やむことがあるというのだろう。そんなものはいらない。……いらないと言っているではないか!

 ギンッ!

 苛立ちと共に純白の神武に白刃を振るう。だが大神は交差させた刀でそれを受けると跳ね返す。
 本当に彼は強くなった。自分が見込んだ通りに。
 笑い出したくなった。いっそ清々しい思いすらするではないか。

 彼の強さはあの娘(こ)のせいなのだろうか。
 可愛い娘。
 そう、あの娘は可愛い。大神が惹かれ、そして惚れたほどに。

(マリア、私はあなたが羨ましい。そして……憎い!)

 大神に想われ、護られるあの娘が憎い。彼を支え続けるあの娘が憎い。

 何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。
 大神は自分を捨て、あの娘を選んだ。だから今、自分にこうして刃を向けている。
 自分は大神に惹かれていたのだろうか?
 いいえ、そんなはずはない。自分が愛したのはあの人ただ一人。だから今、こうして大神に刃を向けている。

 逃れられないこと? 定められていたこと?
 一体誰に? 人知を超えたものに?

(馬鹿馬鹿しい! 私が選んだのよ!)

 そうだとも。憎かったのだもの。
 この血のために、厳格な規律と苛烈な鍛練に縛られてきた少女時代。
 その自分をも超えてゆく男。自分ではなくあの娘を選んだ男。そして、あの人が果たせなかったことを為す男。

(そうよ……だから殺してあげるの)



「俺はあなたとは戦いたくない……。俺の目的は叉丹を倒すことだ。退いてくれ、あやめさん!!」
「叉丹様の邪魔はさせないといったでしょ? 教えてあげる。私たちに逆らうことの愚かさを」

 そうだ、大神は馬鹿だ。彼の苦しみはすべて彼自身が招いたこと。
 だから殺す。殺して楽にしてやろう。我が慈悲の刃を受けるがいい!

「こんなことをして何になるんだ! これが本当にあなたの望んだことなのか!?」
「ふふ、当然よ。……そして大神くん、君もね」
「!?」

 思わぬ一言に大神の動きが止まる。

「君は私じゃなくてマリアを選んだ。だからこうして私と戦っているんでしょう?」
「それは違う! 俺は人々を護るために……」

 その反論はどこか勢いがない。燻っていた疑問と相俟って、脆くなった大神の心を殺女は的確に責める。

「どうかしら? マリアが私の立場だったとしても、攻撃できるというの?」
「……っ!」
「ふふん……わかっているわよ。だから、ね」

 大神が怯んだ隙を見逃さず、殺女は胴を大きく薙ぎ払うと、瞬時に跳んだ。倒れたままの黒い機体の横に!

「しまった!」
「この娘を殺されたくなかったら刀を捨てなさいっ」

 今の状態の大神にそこまでの警戒を求めるのは酷だったのかもしれない。
 だがそんなことをいっても状況は変わらない。殺女はマリア機の首の間接部分に、反り返った凶刃を宛がう。

「君は賢いからこう考えているんでしょう? 捨てたところで殺されない保証はないぞ、とね」

 唇の端を残酷に釣り上げながら、言い放つ。

「でも、そうしなければ確実に死ぬわよ!」

 ここでまた一人失ったところで、何も変わりはしないのかもしれない。半ば麻痺した大神の精神には、大した影響を与えないかもしれない。
 それでも……。

「……くそっ!」

 ガシャン……。

 無情に響く音。
 沈黙。
 殺女がふっと満足げに笑みを漏らす。そして……。

「あーっはっはっはっ! ほーらご覧なさい。やっぱり君はこの娘のためだけに戦っているのよ」

 弾けるような嘲笑が容赦なく大神を打ちつける。

「ああ、可笑しい! こんな女一人のために、世界の命運を投げているじゃないの。私を倒していかなければ、霊子砲が放たれるというのに!」
「……っ」
「そんな利己的な男が正義を語るなんて、笑わせるわ!」

 大神は何も言い返さない。
 ふと殺女の顔から加虐的な笑いが消え、訝しげにその眉を顰める。

(……その眼、あの時と同じね)

 人外の術か、殺女には大神の表情が手に取るようにわかる。
 唇を噛み締め、こちらを睨みつける鋭い眼光。だが掻き消せない敗北の色。それは同じ顔だった。あの赤き月のもと、彼が自分を撃てずに叉丹に屈した時と。

(本当に馬鹿な男だわ)

 自分を撃っていれば魔神器を奪われずに済んだかもしれないのに。今もまた、マリアを見捨てれば叉丹を止められるかもしれないのに。

「君はいつもそうよ。いつも、その軟弱な心に負けているのよ」
「……それは違うわ」
「「!!」」

 対峙している大神と殺女以外の声が、突然響いた。

「隊長はその優しさを力とする人……。そしてそれを助けるのが私の役目」

 マリア!? いつの間に気がついていたのだ!?

「隊長の行く道を阻む敵は、この私が倒す! たとえそれがあやめさんであっても!!」

 ガッ! ……ズガガガガガッッッン!!

 黒色の神武は目一杯肘を神威・改に打ちつけ、飛び退き様に機関銃を撃ち放つ!

「隊長!」

 マリアがそう叫び終わる前に、得物を拾った大神が飛び出す。
 負けられない。負けてはいけない。
 それを教えてくれた少女たちのために、そして彷徨い続けるあやめのためにも。

 よろめいた機体に立ち直る間を与えず、大きく跳躍する。そは疾風の如し!

「ていやああぁぁっっ!!」
 キィィンッ! ……ザッ!

 渾身の一撃が殺女の刀を弾き飛ばす。
 その機体もまた損傷を受けた彼女は、がくりと膝をついた。



 計器が赤く点滅する。シューシューと蒸気の漏れる音が操縦席からも聞こえる。
 これまでか……。
 諦め? 奇妙な安心感が殺女の胸を満たす。
 やはりそうなのか。やはり避けられないことだったのか。ならば、せめて……。

「さあ! せめて、あなた自身の手で私に止めをお刺しなさい!」

 殺女は顔を上げると、変わらない張りのある声で言い放った。決して弱々しい声を聞かせたりはしない。そうだ、こんな男に屈したりするものか。

「……帰りましょう、あやめさん」

 荒く息を吐きながらも、先程の闘志が嘘のような静かな声で大神が呟く。

「長官が困っていますよ。あやめさんがいないとお酒を止められる人がいなし、報告書も書けないんです」
「…………」

 なぜ? なぜ大神はここまで自分に固執するのだろう? 裏切り、言葉と鋼の刃を向け続けた自分を救おうとするのだろう?
 優しさ……。優しさを力とする男……。
 優しさなんて弱さではないのか? そんな心を持っているから人は迷い、過ちを犯すのではないのか? だからあの人は力を求めたはずなのに……!

「……どうしてわかってくれないんですか。隊長は……私たちは、あなたがいてくれたからこそ……」

 マリアが泣き出しそうに絞り出した声を大神は黙って手で制し、この上なく優しい声で言った。

「帰りましょう……あなたが育てた帝撃へ」
「それはさせんぞ、華撃団!」

 突然の声に、三人ともはっと振り返る。

「葵叉丹!」「叉丹様!」

 そう、霊子砲の前にいつのまにか銀髪の男が姿を現していた。

「さあ殺女、俺のもとへ来い。祈りは届いた。霊子砲は我が手によって放たれる」
「なっ!?」

 大神の驚愕には耳も貸さずに叉丹は続ける。

「共にこの世の終焉に酔い痴れようではないか」
「叉丹様……」

 それは安らぎへと導く声。さあ、あの人のもとへとゆこう。待ち望んだ瞬間がすぐそこにあるのだから。
 でも……でも、この痛みは何?
 ……違う!

「駄目だっ、あやめさん!」
「うっ……ううっ……」

 殺女は頭を抱え、低く呻く。溢れ出ようとしているものを必死に耐えている。
 嘘。偽り。虚構。似非。そんな言葉がぐるぐると回る。あの人の顔が眩しい笑みと冷たい笑いに交互に変わる。
 痛い……。頭が割れそうに痛い……。

「ち、違う……うぁ……」
「「あやめさん!!」」「殺女!!」

 違う! 違う! 違うと言っているのに!!

「うくっ……くああぁぁぁっっ!!」

 悲鳴と共に、菖蒲色の機体からどす黒い波が吹き出す!

「違う! こんなの違うわっ、叉丹様……。いいえ、真之介さん!!」
「!!」



 思い出が奔流となって身体中を駆け巡る。
 今はなき、帝国陸軍対降魔部隊。
 帝都を魔から護るために集められた精鋭たち。そして出会った……あの人。

 忘れない。あの充実感は決して夢ではなかった。決して幻ではなかった。
 背中を護り合い、共に剣を振るい戦った時間。夢を語り合い、思いを共にしたすべてが輝いていた季節。

 忘れない。儀式が失敗に終わった夜、あの人が漏らした言葉。この身を抱き竦めた腕。
 そして、決戦の日。破邪の血の男が放った光に、あの人は掻き消えた。

 それでも、それでも走り続けてきた。この街のために。目映いほどに輝いていた、あの人の瞳のために。

 藤枝あやめ、彼女は愛した。街も、人も、何より山崎真之介という男を。



「あなたは気高い人……」
「殺女……」
「誰よりも正義を貫こうとした、私の思い人……。こんなものはまやかし……。どうか……どうか眼を覚まして……」

 あやめは静かに、慈しむように語りかける。どんな屈強な男でも素直に頷いてしまいそうな、限りなく優しい声。
 彼女を見つめる叉丹の眼差しは揺れる。
 戸惑ったように。拠り所のない儚げな少年のように。

 だが次の瞬間、かっ、とその眼を見開くと、吐き捨てるように声を荒げた。

「……血迷ったか!」

 坂を転がり出すもの。不可逆の道。向かうは破滅。
 また一つ、光は潰える。





(殺女よ……お前も俺を裏切るというのか!?)

 捻り潰されるほどの衝動と絶望が身を貫く。
 再び巡り会えたというのに、やっとふたりで歩んでゆけるというのに、まだ信じるのか?

(なぜだ……! なぜお前はそこまで……!)

 何も知らず享楽に狂う愚民どもに、それでもまだ未来を見出すというのか?
 無知なる罪人どもに、それでもまだ救いを与えるというのか?

(……その男のせいなのか!?)

 あやめは自分の闇の安楽よりも、大神の光に賭けるというのか? 正義などという他人を顧みない刃を振り翳す、大神を護るというのか?
 ならばその男を殺すまで。教えてやろう、力なき者は滅びるのだ!

 叉丹が両手を前に突き出し短く何かを唱えると、青白く輝く帯がバシッと音を立てて放たれた。それは強暴なる妖力の具象化。

「やめてえぇぇっ!」

 咄嗟に大神の前に飛び出した影。両手を広げ、立ち塞がるあやめの姿が眼に入った。

(お前は……!)

 だが叉丹は逸らさせもしない。それどころか逆に白熱した光線は輝きを増す。
 彼の精神は気が狂いそうなうねりに飲み込まれる!

(約束を果たせないのなら、いっそ……!!)

 ズガアアァァァンッッ!!

 閃光、轟音、衝撃。すべてが一瞬のうちに駆け抜けてゆく。
 かつてあやめを護るために身につけたはずの力。それを以って叉丹は彼女を滅した。





「あやめさぁぁぁんっっ!!」

 その言葉が耳を劈くように響いてから、大神は自分が叫んだのだと気づいた。

 掬い切れないもの。溢れ出す水。零れ落ちてゆく砂。
 伸ばした手は空を切り、ひゅっという風の音だけを残して、かの人は闇へと消える。
 あまりに呆気ない最期。だが、そんなにも簡単にそれを認められない。

 その事実と幻想の差に、引き裂かれる!

「……っぅぅぅ!! ……叉丹! お前だけは許さんっ!!」
「……貴様に何がわかる! 正義なんぞで俺を倒せると思うな!!」

 叉丹もまた、血を吐かんとばかりに叫ぶ。

 大神が駆け出すと同時に、叉丹も魔操機兵に乗り込む。それは彼の英知の結晶、神威・改。
 対する大神が駆るは神武。しかしその霊子甲冑もまた叉丹の、いや、真之介の天才という他ない才能の賜物なのだ。

 この街に蔓延る魔に対抗するために生み出されたはずの、鋼の鎧を纏う者たち。かつては志を同じとした者たち。
 大神は真之介になったかもしれない。真之介は大神になれたかもしれない。互いが歩んだかもしれない道をゆく者たち。
 そして二人の男は一つの絶望を共にしながらも、その相容れない思いをぶつけ合う。

「うおおぉぉぉっっ!!」
「すべてを……無に還せええぇぇぇいっっ!!」

 身体の中で暴れ回る、怒りと憎しみが入り交じったどす黒い渦。そのすべてを叩きつけんとばかりに刀が激突する。
 一人の女性のためという名目のもと、醜い感情のために。だが、もしかしたら……哀しいまでに一途な想いのために。



「いけませんっ隊長! 自分を見失わないでっ!」

 周囲に現れた降魔に銃弾を撃ち込んでいたマリアが叫ぶ。
 憑かれたように攻撃を繰り出す大神は、あまりに危険だった。

 その声にはっと我に返った大神が、大きく神威・改と間合いを取る。

「マリア……」
「大丈夫、隊長ならきっと勝てます」

 マリアは不思議なくらい冷静だった。
 仲間たちの、そしてあやめの死。その痛みは彼女もまた同じ。だが、それでも輝き続けるものは数多く、そしてすぐ傍にもある。彼女の希望はまだ潰えたわけではない。
 それゆえに、落ち着いて、だが熱い思いを込めて言った。

「そのために私がいる。そうでしょう!?」
「……ああ!」

 大神が力強く頷く。
 ああそうだ、こんな自分を助けてくれるマリアがいる。大神はこの時、彼女の支えを心から感謝した。

 こんな自分にもできることがあるのなら……。まだ、この手によって救えるものがあるのなら……。
 戦い続けよう。我らが姉の愛したこの街を、人々を護るために。

(……それが、俺の正義だ!)



「マリア……」
「隊長……」

 二人から溢れ出した霊力が共鳴し、さらに増幅する。
 大神が作り出した霊子エネルギーの光球が膨れ上がり、それをマリアが撃ち抜く!

「「ゾロティ……ボロータァァァッッ!!」」

 完全に同調した霊波と思いが爆発する。

 猛烈な速度で弾け飛んでゆく金色の鋭利な刃は、周囲の降魔と、そして闇夜の色を映した魔操機兵を打ちつける。
 交じり合い、絡み合う、白と銀の波が駆け抜け、辺り一面は白熱した。





「……馬鹿な! この俺が……貴様らごときに……!」

 四散した機体から辛くも脱出し、霊子砲のもとへ跳ぶ。

「認めん! 認めんぞ!!」

 そうだ、こんなことがあっていいものか。
 まだこの霊子砲がある。これさえあれば思い知らせてやることができる。

「さらばだっ、帝国華撃団! やはり、貴様らの、負けだあぁぁっ!!」
「やめろぉぉっ!」

 その声を尻目に、最後の拠り所となったものに手を伸ばす。

 自分は禁忌に触れた。だが、それを決して後悔したりはしない。
 知ってしまったがゆえの憎悪。
 この地の呪いを、蓄積された怨念を。人間どもの無知を、無力を。だから……!

「貴様ら人間の……罪を償ええぇぇぇいっっ!!」

色褪せし幻想 後編