掲載:2001-01-04
もういいんだよ
辛いなら逃げてもいいんだよ
誰もあなたを責めはしない
矢を射る者がいるなら盾になる
もういいんだよ
傷つく必要なんてないんだよ
眼を閉じておやすみなさい
膝枕をしながら髪を梳いている
茨の言葉を覚えるだけなら
ずっと子供のままでいて
涙を流せば流すだけ
あなたの瞳は澄んでゆく
もういいんだよ
もういいんだよ
夢見て明日眼を覚ませば
きっと光が差している
解説:初出は1999年12月15日、隠しページにて。似ているがゆえに慰めを求めてしまったあなたへ、謝罪を込めて捧げます。
掲載:2001-02-03
終わりを与えられるだろうか
輝く照明と優美な旋律の中で
舞い踊る君たちが脅かされる日に
煌びやかな衣装を武骨な鎧と替え
硝煙に煙る戦場へと駆り出す世界に
手に入れられるだろうか
勇ましい英雄譚など幕を閉じ
市井の娘としての幸福が訪れる日を
愛すべき君たちの気丈さが
荒れ果てた戦場で表されない世界を
解説:大神から花組の少女たちへ。君たちの傍に軍人の俺はいてはいけないんだ。続くべきは戦いの日々ではなく、ささやかな日常なのだから。
掲載:2001-02-28
「すき」
またひとつ、届かない呟きが漏れる
「すき」
またひとつ、叶わない願いが消える
「すき、すき、すき」
この部屋に溶かした言葉すべてを浴びせたい
想った時間そのままあなたを閉じ込めたい
呼びかけた名前の数だけ私を見てよ
「すきなのに……」
あなたのためと言いたがる私のために
あなたの所為と言いたがる私の所為で
この部屋が飽和点に達したら窒息できる?
解説:大きさや重さが何になる? それを正義だと思い込める、無知な少女ではあるまいに。私はきっと、発した言葉の意味すらわかっていない。
掲載:2001-03-02
一歩踏み出すたびに振り返り
また一歩踏み出すたびに振り返り
君は歩んできた道を確かめた
不規則な歩幅
曲がりくねった足跡
私を見つめた不安げなその顔
「これでいいんだよね?」
そう訊かれているような気がして
私は大きく頷いてみせた
解説:無理して大股で歩きたがってきた、私の中の小さな子供に苦笑する。でも、それも間違ってはいなかったのだと、同じ道の先で君に言うよ。
掲載:2001-03-22
見知らぬ空映す漆黒の瞳よ
見知らぬ花映す未来への窓よ
その手で護ったあの街の景色を
その心に刻んだ少女らの笑顔を
再び見つめる日が来るだろう
それはこの先にある明日の続き
何もなくしていない
何もなくしてゆかない
だから、恐れずに、今、踏み出す
解説:サクラ大戦3発売に寄せて。恐れるものなどない。護るべきものは、この心の内にあるのだから。
掲載:2001-04-07
終わりをください
もう終わりにしてください
想い永遠とするために
離れる私を責めるのなら
白い刃にもう二度と
私の姿を映さないで
白いあなたはもう二度と
私の心を見ないでください
解説:すべて曝け出せると思えた視線をなぜに恐れる? 裏切らないための逃避さえ、あなたに求めなければならないことで、さらに裏切りを重ねるのです。
掲載:2001-04-12
大切だと感じられるだけで
素晴らしいことだと思えるよ
でも……
ほら、まただ
繋げるのは逆接の言葉ばかり
喜びも感謝も翻してばかり
私を捕らえるアンビヴァレンス
助けを求めるこの腕さえも
裏腹な思いに遮られるよ
解説:心の有り様を見つめるのは、自分の弱さを浴びるようなもの。そんな自分と共に生きてゆけると思えたことも、いつか裏切る私がいるなんて。
掲載:2001-04-15
どこで止めておけば
こんな思いをしなくて済んだのだろう
どこで満足していれば
こんな自分を知らずに済んだのだろう
穏やかな笑みを向けられた日?
温かな優しさを知った日?
真っ直ぐな強さに護られた日?
傍にいられるだけで幸せだと思えた日?
それとも桜の下で出会った瞬間に
時を止めてしまえばよかったの?
それともあなたに出会わなければ
「もっと」を望むあたしもいないのですか?
解説:知らなければよかったのだろうか。与えられたものすべてを否定する、その答えには気づかない振りをする。
掲載:2001-05-09
何か話してくれないか
声を聴いていると落ち着くんだ
甘い愛の言葉なんて
永遠の約束なんていらないから
君の声を聴かせてほしい
眼が合ったら笑ってほしい
安らぎは君が纏う空気
今はその中にいてもいいかい?
解説:大神からマリアへ。傍にいたいというのは、きっとそういうこと。その声を聴きながら、確かな存在を感じていたい。
掲載:2001-06-01
溢れた期待の受け皿
得られないなら癇癪起こして
被害者ぶって終わりにするかい?
歪んだ妄想の捌け口
汚されたって喚いて投げつけ
すべて壊して終わりにするかい?
解説:そうすることでしかあなたの思い、表せないのですか?
掲載:2001-06-04
刃は翳さず内に向け
まっすぐに見据える瞳よ
その痛みは罪ではない
受け入れ乗り越えられる
人として生きるその証
気高いあなたの心の強さ
解説:自らの内の真実を見極めようとする、あなたの強さは美しい。その眩しさに自分の影を浮かび上がらせながら、私はそう思うのです。
掲載:2001-06-19
画面越しの翡翠の瞳が驚いたその後に
伸ばした腕が遮られたことに気がついた
言えない
君の仕種が愛しくてならなかったなんて
言えない
距離も忘れて抱き締めたくなったなんて
手を伸ばしても届かない温もりだけど
言葉に託して届けたい思いがあるから
「その……誕生日おめでとう」
慌てて頭を掻いた腕が不自然だなんて
どうか思わないで微笑んでくれないか
解説:太正十四年、マリアの誕生日に。
掲載:2001-07-08
視界は白く、世界は白く光に溢れ
夏の陽の、その鋭さをいとおしむ
瞼に浮かぶあなたよ、消えなさい
染みついたあなたよ、消えなさい
この身体を光に晒し、突き刺して
すべてを焼き切らせて差し上げる
解説:その神聖なまでの白に救済を見る。あなたの面影、真っ白に掻き消してしまいたい。
掲載:2001-09-08
別れるために出会った二人
裏切るために灯した信頼
失うために焦がれた君よ
破るために交わした約束
忘れるために重ねた思い出
傷つくために合わせた肌も
君を愛せていたならば
すべては違っていただろう
愛することができたのならば
想いひとひら散り落ちまい
解説:すべてが陽へと働く真実は、誰もが手に入れられるはずなのに。永久に咲き誇る花となるだろうに。
掲載:2001-11-01
眼に見ることのできるもの
手に触れることのできるもの
やがては朽ちるものだとしても
今視線で捉えるその輪郭を
今指先でなぞるその唇を
偽りになどはできないから
温もり求めるこの腕こそが
僕の想いを嘘にするなら
今ひとときの事実を重ねて
永遠を創り出してみせようか
解説:思い出に閉じ込めたりはしない。紡ぐ言葉が過ごす時間が、君を創る僕を創る、そして永遠を創り出す。
掲載:2001-12-18
「……何ですの、その顔は?
わたくしが躍起になるのは
可笑しいとでも!?」
涙は零れない。零したりはするまい。
「本気でなかったら、
本気でなかったら、
……一体何ができると仰るの!?」
歪んで開かれた唇がそう声を荒げると、
すみれはひっ、と喉を鳴らした。
解説:君が見せてくれた表情にはすべてがあった。嘘も真も、そのすべてが愛しかった。