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「月の宴」タイトル

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 「あと3人か、主賓を含めて。」
 犬神が言う。酔えないと言っていた割にはご機嫌である。
 「おっと、そうだ。」
 岩山は、つまみのビニール相手に悪戦苦闘していた。しばらくしてあきらめたように犬神に渡す。犬神はあっさり袋を破って岩山に返した。  「織部のとこの2人は来れないそうだよ。なんでも、じいさんの傷の湯治に行くとかでさ。もっとも、こないだうちの病院に顔を出したときには、傷痕も消えてぴんしゃんしているように見えたけどね、織部の兄さんは。」
 岩山は、塩の山をちょっとだけあきれたように眺め、つまみを広げる。てんでに3人から手が伸びた。
 「ほほぅ、相変わらず仲が良いのぉ、あの2人は。」
 龍山はうれしそうに笑った。

 「へへっ、ぬかしやがれ。まぁあいつのこったから『ひとりで行く』って言いはって、姐さんの方がむりやり付いてったに違いねぇぜ」
 「見てきたようじゃのぅ」ほっほっほっほと龍山は笑う。
 「まぁ、その通りじゃろうがの。」
 「しかし、織部の嬢ちゃんたちも大きくなったものじゃ。特に、雪乃のほうは、昔の姐さんそっくりになりよったわ。」
 「あんたはあの娘たちの名付け親だもんねぇ…。」
 岩山は龍山の茶碗に新しく酒を注いだ。
 「どっちかというと雛乃は織部の兄さん似だね。」
 「どっちにしたって頑固って点だけはふたりともいっしょじゃわい。」
 龍山の口調ははまるで実の娘のことのようであった。
 「龍山はその昔姐さんに懸想してたからねぇ。」
 岩山が言うと、とたんにぶほっと龍山がむせた。
 「な、なにを…」普段は冷静な龍山が真っ赤になって目を白黒させている。
 「おや、違うのかい? それともあれで隠していたつもりだったとか。」
 岩山は容赦がない。導心と犬神は同時に吹き出した。腹を捩って笑い転げている。
 「…じじいをからかいよって…」
 ぶすっとして言いかけたところに、微かに薔薇が薫った。
 「Hello, みなさま。お招きいただきありがとうございます。」
 
 いつの間にそこにいたのか、金髪の美女−マリア・アルカード−はあでやかに微笑して一揖した。
 
 

 「しかし、見事なものじゃのぉ。」
 一通り挨拶が終ったあと、導心はしみじみと言った。
 「まるで気配もなしに…どこぞのスカートに隠れてきた小僧とは大違いじゃ」

 「…なっ」
 「スカート?」声がかぶった。

 「なんてことを…あれは…」
 犬神にしては珍しくうろたえた様子を見せた。
 「犬神センセーは、送り狼であたしについてきたのさ。ヒヒッ。」
 岩井たか子が追い討ちをかける。
 「まァ…しかたないわねェ、フフッ」
 マリアがほほえむと、犬神はますますうろたえた。
 「あれは、ここに来るのに…」
 「マリア先生は気付かれずに来たではないか。」
 龍山は決めつけた。
 「ちと、なまっておるのではないか?」
 「うぅ…」
 犬神はぶすっとした顔で言いかけた。
 「しかし、それを言うなら……」
 「それはもちっと後じゃ。」
 導心が目顔で止めた。首ひとつ動かさずにちらっと作業小屋を見やり、すぐにマリアに視線を戻した。目が笑っている。
 マリアはいたずらっぽく笑って片目をつぶってみせた。こういうときの彼女のしぐさは、普段よりずっと子供っぽく、どうかすると少女のようにみえる。
 「もうちっと狭い所で我慢してもらおうて。」
 ほっほっほっほ、と龍山は小さな声で言うと、楽しげに笑った。
 「あやつのでかい身体にゃちとキツいかもしれんがの。」

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