鎮詠-しずめうた-
「全ては移ろいゆくものか…」
俺は自分を誤魔化すように、そう口にする。あいつの剣は天性のものだ。師匠はそう言った。
それでは俺は?あいつは、欲しいものを全て手に入れている。
俺は、望んでるただ一つのものも手には残らない。
力も望みも全てあいつは有している。だが、あいつは俺が声をかけると困ったような顔をする。
「お前が羨ましいと…」あいつは俺の持ってるものが手に入らないというし、俺は奴の手に入れてるものが欲しくてたまらない。
「お前と俺の持ってるものが、正反対なら良かったのにな…」
俺がそうつぶやくと、あいつも苦笑混じりに同意した。でも多分、そうなったら正反対のことを思うのだろう。
俺とは正反対の性格、正直それが羨ましくて仕方がない。
だが、俺は俺のままでしかいられない。だから、真之介。
他のものはくれてやる。
俺が[人]でいられる、最後のものまで奪わないでくれ。
・後書き