希求の果て

 気がつけば、その姿を求めている。

 広い背中。首筋から肩へと流れる線。眼を閉じても、思い浮かぶほどに。
 今だって、ほら……。
 無意識のうちに追いかける視線の先に、あなたの横顔がある。



 そう、その顔。
 息が詰まる。
 あなたの顔を見ているだけで、どうしてこんなにも心乱れるのか。

 声なんてかけられない。
 その顔を正面から見ることが怖い。その視線を受けることが怖い。
 痛いほどにまっすぐな眼差しを防ぐ術(すべ)を、私は持たない。

 この卑小なる身を晒すことを、私は恐れる。



 だから、こうして盗み見るようにその姿を追い求める。

 ごめんなさい。
 わかっているのです。あなたは変わらぬ笑顔をくれる。変わらぬ優しさをくれる。でも、だからこそ……。

 ……馬鹿みたい。疚しい気持ちになるくらいなら、やめればいいのに。
 それでも、眼が離せない。



 その光。
 あなたは光放つ人。輝ける人。
 あなたは……眩しすぎる。影を纏う私には。



 叶わぬと知りながらも、隣に立つことを憧れ、そして恐れる。

 これは恋なんかじゃない。
 あなたは光。だから惹かれた。
 私は影。だから惹かれた。

 ないものを求め、過去を否定するために。
 変われるはずなどないとわかっているのに、それでも求める。
 限りない憧憬と、同じ深さの自己否定。

 だから恋なんかじゃない。
 あなたと共に輝くことを渇望し、同時にその光に掻き消されることを恐怖する。
 闇に飲み込まれることを恐れるがゆえに、私はあなたを求める。



 そう、救いを求める。

 存在の肯定。存在の意義。
 あなたを求めることで、それを得ようとする。
 あなたに認められることで、それを得ようとする。
 自分のためだけに、私はあなたを利用する。

 だから恋なんかじゃない。恋だなんて言えない。



 わかっている。
 私はあなたにはなれない。隣にも立てない。
 輝けるあなたに惹かれ、焦がれ、そしてこの身は消え失せる。
 鉄と硝煙の匂いと、こびりついた翳を落とすためには、この身を塵と化するしかない。

 そう、それを望む。
 自分のためだけに、私はあなたを求める。
 闇に飲み込まれることを恐れるがゆえに、光に掻き消されることを望む。



 お願いです。
 温かい言葉なんてかけないでください。眩しい笑顔を向けないでください。
 あなたの優しさを無下にすることしかできない私を、思いやったりしないでください。

 お願いだからやめて。優しくなんてしないで。
 あなたを……好きになってしまう。

-了-