いつか訪れる、紫陽花の見える窓のある部屋で、君に贈りたいものがある。
約束という名の鎖で、縛りつけ合うものじゃないけれど。
俺の隣にいることが、何よりも正しいなんて言えないけれど。
過去に捕らわれ続けていた君に、やっと今を見つめることができた君に、今度は、未来を目指していってほしいから。
いつか訪れる、紫陽花の見える窓のある部屋で、君の白い左手を取り、君の瞳と同じ石の輝く指輪を、その薬指に嵌めるよ。
君に秘められた可能性を、俺が引き出す。
君が湛えるべき微笑みを、俺が与える。
君が得るべき幸せを、俺が齎す。
こんな傲慢なことってないよな。こんな不遜なことってないよな。
でも……もし、これが君の力の一つとなるのなら、俺は百万の雷(いかずち)に打たれようとも構わない。
この、儚く、あやふやな世界の中で、俺が少しでも役に立てるのなら。
君が、俺を必要としてくれるのなら。
…………。
……………………。
……やっぱり駄目だ。ごめんよ、そんなのは飾りなんだ。
俺は利己的な人間だから、強引にでも言うよ。
傍にいたいんだ。君が必要なんだ。
幸せにしたい。君と一緒に幸せになりたい。
ずっと隣で微笑んでいてほしいんだ。
ああっ、君の前だと俺はどんどん我が儘な男になってしまう!
……でも、俺は臆病な人間だから、今はまだ言えないけれど……。今はまだ伝えられないけれど……。
いつか訪れる、紫陽花の見える窓のある部屋で。
いつか訪れる、君がこの世に生を受けた日に。
俺の贈る煌きは、君の放つ煌きに、きっと霞んでしまうだろうけれど。
君が翡翠に誓いて、いつの日にか、この「幸福」という言葉を持つ石を。
-了-