面影

作:中原 陵成様 / Belgard

もし貴方がここにいたら こんな事言えるかどうか解らない
先ほどまで胸に抱えた痛みが 通り過ぎたのをいいことに
グラスをふたつテーブルにおいた


あのとき貴方は 何を好んで飲んでいたのでしょうか?
私はまだ子供過ぎて 貴方が飲んでいたものがいまだに解りません
だから今日は懐かしい気分でいられるように 街で目を留めた琥珀の水を買い求めてきました

あの日初めて貴方が一人で飲んでいた夜に 忍び込んだ私をすぐ側に置いて
怒りもせずに気持ちよさそうに グラスを傾けていましたね
いつしか私に覚えているように頼んでいるかのように 私の相づちを待ちながら話し始めたんでしたよね あの日は
そんな貴方の姿を見て 何もできない自分が歯がゆかったのですが
今日になってみて ふと何もできない私だったから側に置いてくれたのかなと気が付きました
貴方の話は難しすぎたけれど 今でも貴方の話は覚えています
ひとつひとつ大切に覚えています

もう何度 この日を一人で迎えたのでしょう?
貴方とは一度こんな風に話してみたかった
今日だけは このように椅子に貴方の姿を探して
貴方の分のグラスを前に 話をする事許してください

大丈夫思い出だけに生きてはいません 私には大切な人がいます
私なんかが守らなくても 必ず生きて帰ってきてくれる人がいます
だからでしょうか? 私も彼が護るものを守ってみたくなっていて
少しは自分を大切にしてみようかと思っています
そうするとあの人は喜んでくれるし 何となくですが貴方も喜んでいただけると思うのです
だからもう少し ここにいることを許してくださいね…ユーリー隊長

…気のせいでしょうか?貴方の写真を入れたロケットが 椅子の背で相づちを打ったかのように一度だけ揺れたような気がします