その日はレニにとって居心地のいい日ではなかった。
朝から、みんな時にバタバタと時にコソコソと何かやっていたのだが、レニにはそれがいったい何なのかよくわからなかったからだ。
とりあえず、レニはアイリスの部屋を訪ねてみることにした。
コンコン。
「はーい。」
小さくノックすると、元気な声とともにパタパタという軽い足音がしてドアが開けられた。
「あ、レニーー。どうしたの?」
「あ…アイリス、ちょっと今いい?」
「うん。どうぞ。」
招かれて部屋に入ったレニは思わず声を上げた。
「わぁ…。」
部屋の中には色とりどりの花が散らばっていた。
「…あ、ごめんね、散らかってて。」
「何をしてたの?」
「あのね、マリアのために花飾りを作ってたの。」
「マリアのため?」
「うん。だって、今日はマリアのお誕生日だもん。」
その時レニはやっとみんながバタバタとなにかやっていたのはマリアの誕生会の準備であることに気がついた。
「そうか…マリア、誕生日なんだ。」
「レニ…しらなかったの?」
「うん…。」
「そうか…これはねマリアへのお誕生日プレゼントなの。」
「プレゼント?」
「うん。」
「そうか……」
そこまで言うレニは考え込んでしまった。マリアにはいつも優しくしてもらっているし、自分も何かしたい。でも、何をしたらいいのかレニにはわからなかったのだ。
「ねえ…アイリス…ボクも何かプレゼントしたい。でも、何をあげたらいいのかわからないんだ。」
「なんでもいいんだよ、レニがあげたいと思うモノならきっとマリア喜んでくれると思うよ。」
「………」
「じゃあ、レニが好きで、マリアも好きなモノをあげればいいんじゃないかなぁ。」
「…ボクが好きで…マリアが好きな…モノ?」
「うん。でもでも、レニがマリアのために選んだものならきっとマリア喜ぶと思うよーー」
「ボクが好きで…マリアが好きな…あッ……」
レニはひとつだけ思い当たるモノを見つけて思わず声を上げた。
「あ、何か思いだした?」
「うん。」
「じゃあ、それをマリアにあげればいいよー、マリアもぜーーーったい喜ぶよ。」
「そうか…ねえ。アイリス、プレゼントってただそのままあげればいいものなの?」
「うーん、おリボンとかつけてあげればいいと思うけど…ちょっとまってね。」
アイリスはそういうとタンスのをあけて中をさぐりはじめた。
「あったーー!」
戻ってきたアイリスの手には赤い幅の広いリボンが握られていた。
「このリボンをつけてあげれば、プレゼントらしくなると思うよ。」
「ありがとう…じゃあボクもマリアにプレゼントあげてくる。」
「うん。がんばってねー、レニ。」
「うん。」
レニはもらったリボンを握りしめ、アイリスの部屋を後にした。
(ボクが好きで、マリアも好きなもの…それはたった1つしかない…。)
レニが向かったのは大神の部屋だった。
「はーい。」
ノックをすると大好きな隊長の声がしてすぐに扉が開けられた。
「あ、レニ。どうしたんだ?」
大好きな隊長の笑顔。やっぱりこれしかない…。
「隊長、ごめん……」
そう呟くとレニは素早く大神に当て身を食らわせた。
「う…レニ………なんで………」
ドサッ……
わけもわからぬまま、大神は気を失った。
マリアはみんなから今日は部屋でゆっくりしていろと命じられてしかたなく部屋で本を読んでいた。最近、ゆっくり読書をする時間もあまりなかったのでそれはそれでマリアには幸せな時間ではあったが…。
コンコン。
小さなノックがしたのはそんな時だった。
「はい、誰?」
『…ボクはレニ……』
「レニ? 今あけるわ。」
珍しい訪問者にあわててドアを開けたマリアは思わず絶句した。
「マリア、今日お誕生日なんだってね……おめでとう。」
「…あ…ありがとう…レニ…。」
「これ…ボクからの誕生日プレゼント。」
そういうとレニは背負っていた大神をドサッと部屋の中におろした。
「プレゼントって…あの…レニ?」
あまりの状況にマリアの声がうわずる。
「プレゼント…何がいいかわからなくってアイリスに聞いたら、ボクもマリアも好きなものがいいって言われたから。マリア、隊長キライ?」
「いえ、いえ、そんなことないわ。」
マリアがそういうとレニは安心したようにふんわりと微笑んだ。
「よかった…。じゃ。」
それだけ言うとレニはパタンとドアを閉めて帰ってしまった。
残されたマリアは呆然と目の前に残された大神を見た。よく見ると首に赤いリボンまでついている。大神を選んだのは問題としてもレニが自分のためにプレゼントを持ってきてくれたことに思わず感動してしまっていた。
「あ、いけない…隊長を起こしてあげなきゃ……」
マリアは我に返って大神を抱き起こした。
「隊長、隊長、しっかりしてください。」
「うーーん……」
何度か揺り動かして声をかけるとやっと大神は目を覚ました。
「あれ?マリア…俺いったい………あ、そうだレニが…レニが来て突然当て身を食らわされて……でも、なんで…ここ、マリアの部屋じゃないか。」
「ええ。隊長はレニからの私への誕生日プレゼントだそうです。」
「誕生日プレゼント?ああ、そうか…今日はマリアの誕生日だもんなぁ。」
「ええ。なんでもアイリスにレニが好きで私の好きなものをプレゼントするといいって言われて、隊長をプレゼントに選んでくれたらしいです。」
「ええーーッ。」
「レニらしいといえばレニらしいですが…人をプレゼントするなんて…今度ちゃんと言っておきますから、許してあげてくださいね、隊長。」
「ああ、…そうかでもレニがマリアにプレゼントをしたいと思ったのか…」
「ええ。私、なんかその気持ちがうれしいです。レニもゆっくりとですが、変わってきてるんですね。」
「ああ。…ってことは俺はマリアにプレゼントされたわけだから。今日はマリアのってことだな。」
「え?」
「今日はマリアのわがまま、聞くよ。なんでも言ってくれ。」
「あ、いいんですよ、隊長。そんなこと…」
「僕がしたいんだ。夜にはみんなが誕生会を企画してるみたいだから…とりあえず、それまで銀座あたりでお茶でもしないかい?」
「……はい。」
マリアはレニからの思いがけないプレゼントに心から感謝した。
Ende
<番頭彩の言い訳>
マリアのお誕生日直前なのに…こんな話を書いてしまいました(^_^;)
これは秘宝館に絵も送ってくれました私の友人・竜堂渉と電話で話をしていた時にできたネタです。
あまりにも置き去りにされたままでは甲斐性がなさすぎるのでラストは大神さんにがんばっていただきました(笑)。
まあ…たまにはこういうのもいいかなってことで、ご笑覧ください。