Moonlight Fairy

 
 そこは厳寒の地。忘れることもない、マリアが生まれたところ。どこまでも続く真っ白な大地に一人、マリアは立っていた。
(…これは夢…?)
どこかでわかってはいるのだけれど、その淋しげな風景にマリアは身体を大きく奮わせ、コートのあわせを握りしめた。
「マリーアッ!」
懐かしいその声に振り向くと、そこはいつの間にか革命軍の戦場に変わっていた。足元には倒れた同胞たち。その時、目の前に銃を構えた敵が飛び出した。
(殺されるッ!)
マリアは反射的にいつの間にか手にしていた銃を発射した。
「ぐわぁッ」
断末魔の叫びを残して崩れ落ちた敵は…
「隊長ッ!」
敵の姿はユーリーに変わっていた。力無く倒れたユーリーを抱き起こそうと近づき手を差し伸べる。しかし、その身体を抱き上げたとたん…
「隊長?!」
その姿は大神の姿に変わっていた。そして、マリアの腕のなかで、大神は塵となって消えていった。
「隊長ーーーーッ!」
そのままマリアは気が遠くなっていった。



「…リア!…マリア!」
名前を呼ばれて目を開けると、心配そうに見つめる大神の姿があった。
「隊長?」
ゆっくりと見回すとそこは慣れ親しんだ帝劇の自分の部屋だった。どうやら机で読書をしていてそのままうたた寝してしまったらしい。やはり夢だったのだとマリアは大きく安堵の息をついた。
「ごめんよ。部屋の前に来たらあんまりうなされてたから、勝手に入ってきてしまって。」
「いえ…かまいません…」
「コワイ夢でも見ていたのかい?ずいぶんとうなされていたけど。」
そういいながら、大神はポケットからハンカチを取り出し、マリアの額に浮かぶ脂汗を拭ってやる。そうされて今自分が大神の腕にもたれていることに気付き慌てて起きあがろうとするが、身体に力が入らないのと、意外にもしっかりと大神が抱いているのでうまくいかなかった。しかたなく、マリアはそのまま大神の好意に甘えることにした。
「…ロシアの夢を見ていました……私の育った雪に閉ざされた大地の夢を……」
「そうか…」
それだけ言うと大神は黙ってマリアの汗を拭い続けた。マリアはその腕に手をやってそっと握りしめ、再び語り始めた。
「……振り返るとそこは革命の中でした。私の回りは同志たちの冷たい骸で埋まっていました。…そこにユーリー隊長の骸をみつけて私が抱き起こすと…それは隊長の姿にかわって…」
「俺の?」
マリアは小さく頷き、
「でも、私の腕の中で、隊長の身体は塵になって…」
そこまで言ってマリアは言葉を詰まらせた。
「もういい、それは夢だ。ただの夢なんだから。大丈夫。俺はここにいるよ。」
そんなマリアを大神は強く抱きしめた。
「ありがとうございます………でも…私は、隊長にこんな風にしていただけるような女じゃないんです。私の手はやはり穢れているんです。どんなに月日が経っても決してそれが変わることはない。」
マリアの翠色の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちて、大神の腕を濡らしていく。
「君の手が穢れているというならそれでもかまわない。マリア。俺はそんな君の過去全部含めて愛してるよ。」
「隊長…?」
信じられないというようにマリアは振り返って大神を見つめた。
「君が今みたいに過去に縛られそうになるなら、俺がそんなものは断ち切ってやる。君が前だけを見て歩いていけるように。」
「隊長……」
マリアの瞳から新たな涙が落ちる。しかし、今度の涙はさっきのものとは違った。愛されている喜びの涙だ。そして、そのまま大神の唇をかすめるように口づけて言った。
「抱いてください……本当にこんな私でいいなら、全てを忘れてしまえるように。夢も見ないほどに。」
「ああ、それで君がゆっくりと眠れるのなら。」
大神の唇がゆっくりとマリアのそれを塞いだ。


 月明かりだけに照らされたベッドの上にマリアは自ら全裸の身体を晒して横たわった。大神も全てを脱ぎ去ってベッドサイドに立つ。そんな大神をうっとりと見つめながら、マリアはゆっくりと両手を差し伸べた。
「隊長………」
マリアに誘われるまま、大神はそっと身体を重ねた。
 まるで穢れをぬぐい去ろうとするかのように、大神はマリアの指を口に含み一本一本丁寧に舐めていく。ただそれだけのことなのにマリアは含まれたところから流れ込んでくる大神の情熱に身を焦がされていくようにどんどん熱くなっていく身体をただ、持て余すように身悶える。
「隊長……はぁ……いや……そんなにしないで……くだ…さい……」
「だめだ。君が穢れてると言ったこの手…。俺がその穢れを全部舐め取ってやる。」
そういうと、大神はよりいっそうマリアの指に舌を絡めていく。その度にマリアはビクンと小さく奮え、熱い息を漏らす。
 やがて、大神の唇は手首からひじ、二の腕と這い上がり、うなじに達するときつく吸い上げて紅い痣を残す。しびれるほどの感覚にマリアは大きく背中を反らせて、すがるものを求めるかのように大神の頭を掻き抱いた。そのままマリアは顔を動かし、自ら大神の唇を求める。激しく舌を絡め合いどちらのものともわからなくった唾液が口から溢れるのもかまわず、マリアは飽くことなくその舌を味わう。
「マリア…マリア……」
譫言のようにいいながら、大神も同じようにマリアを感じていた。
「ああ…隊長……このまま、隊長をください…」
「しかし…」
マリアの言葉に大神は躊躇した。まだマリアの中に入る準備をしていないからだ。
「いいんです。はやく、このまま……おねがいッ…します……もうッ……」
切羽詰まったその言葉に大神は決意したように頷くと口づけをしたまま、マリアの中にそっと自身を挿入した。ほとんど触れられていなかったのにマリアの中は喜びの蜜で溢れていて、すんなりと大神を受け入れていった。傷つけることがないように慎重に大神は深く深くマリアの中へと納めていく。
「ああッ……はぁ……」
大神の全てを受け入れるとマリアは充足感にうっとりと息をついた。
「……どんなときでも俺はここにいる。…愛してるよ、マリア。」
「隊長……離さないで……私を一人にしないで…」
「離さない。一緒に歩いて行くんだ…これからは二人で。」
「隊長……」
マリアは大神を抱き寄せ、口づけた。ゆっくりと中で大神が動き出すと堪らないというように大きく息をついて、背中に回した手に力を込める。もう、どこからが自分なのかお互いにわからないほどに溶け合い、二人は恍惚の波に飲まれていった。


 大神はマリアの寝顔を見つめながら、一人ワイングラスを傾けていた。ほつれ毛をそっと払ってやるとその寝顔はまるで可憐な少女のようで…大神はその髪にそっと口づけた。
「ん……」
その感触にマリアはゆっくりと目を覚ました。
「ごめんよ、起こしちゃったかい?」
眠そうに瞬きを繰り返すマリアの目の前にワイングラスをかざす。
「飲む?」
するとマリアは微笑んで頷いた。大神はそっとワインを口に含むとそのまま口づけした。口移しのワインをマリアの白い喉がコクリと飲み込む。
「美味しいです…隊長。」
二人は微笑み合うと、一層深い口づけを交わした。


КОНЕЦ


<番頭・彩の言い訳>

 今回のテーマ「誘い受け」(自爆)を遂行するために、ハーレには珍しく前半がかなりダークな雰囲気になってしまいましたね。でも後半はその分ラブラブだと思うんで…大丈夫じゃないかなと思うんですが、いかがでしょう(^_^;)
今回のハーレにはテーマBGMがありました。タイトルもそのまま「Moonlight Fairy」。THE ALFEEの最新アルバム「orb(オーブ)」の初回特典8cnシングルの中の1曲です。はっきり言って原曲の詩はこの話よりも甘々で、斎藤は何度も砂を吐きながら書いておりました(笑) もっとも、私もALFEEのファンですからこの砂吐きさえも慣れっこ、快感になりつつあるのかもしれませんが(笑)
機会がありましたら原曲も聴いてみてくださいね(^^)

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