昼下がりの秘密


 秋公演が終わり、帝劇にはしばしの静寂が訪れていた。
(…キネマトロン?)
 マリアは聞き慣れた呼び出し音で目を覚ました。読書をしていたのにどうやらいつの間にか眠っていたらしい。
 マリアは反射的に飛び起きると、キネマトロンを開けた。
 呼び出しをかけてきた数字を見てマリアは思わず声を上げそうになった。それはずっと会いたくてたまらなかった人からの通信だったから。マリアがもどかしげに受信スイッチを押すと、懐かしい忘れることなどできない声が響いてきた。
『やあ、マリアおはよう。』
「…隊長………」
すぐに大きな画面に懐かしい大神の姿が浮かび上がった。さすがのキネマトロンも仏蘭西と日本では距離がありすぎるのか画像にはかなりノイズがある。それでも音声はかなりクリアなのでそれだけでもよしとしなければならないだろう。
「…どうして私がうたた寝していたってわかったんですか?」
『え?ああ、そうか、ごめんよ。こっちは今、朝なんだよ。』
「あ…時差が…」
誤解に気付いてマリアは顔を赤らめた。
『マリアでもうたた寝することなんてあるのか。いいこと聞いたな。』
声をたてて笑う大神にマリアは一層顔を紅くする。
「もう、隊長。からかわないでください。…ところで、何かあったのですか?」
『何かなきゃ、キネマトロンを使ったらいけないのかい?』
「いえ…そんなことは…その…連絡いただけて…うれしいです。」
『俺は今日休みでね。でもなんだか早く起きてしまったから…この時間なら通信しても問題ないと思ったんだけど…うたた寝してるのを起こしちゃったなんて申し訳なかったかな。』
「隊長。もう、そんなことは忘れてください。」
『…会いたかった。』
突然、真面目な調子で言われてマリアはノイズの向こうの大神を見つめた。
『あの日、ニースで別れてから…ずっと会いたかった。』
「隊長……私もです。」
瞳を閉じるとあの夢のような一日がよみがえってくる。
「あの日から何度も何度も隊長の夢を見ました。本当に素敵な想い出です。」
そう、あの夢のようなバカンスの夜。二人で飽きることなく愛を確かめ合ったあの夜のことを…それを思い出しただけでマリアは身体の奥が熱くなるのを感じる。
『俺もだよ。何度も夢を見た。マリアのぬくもり、柔らかな乳房、可愛い声…』
「隊長…まだ昼間です…そんな……」
『これはプライベート回線にしてるんだから、誰が聞いてるわけじゃないんだからいいじゃないか。それともマリアはあの夜の事はウソだとでもいうのかい?』
「いえ…いえ、そんな……」
『俺は、毎晩のようにマリアを思い出して、切ない夜を過ごしてるよ。…でもマリアは違うんだね…』
「そんな、私も…私も隊長を思うと切なくて…どうしていいかわかなくて…」
『こうして話しているだけで、俺は熱くなってくる…マリアちょっと目を閉じてみて。』
「え?」
戸惑いながらもマリアは言われた通りに目を閉じる。
『俺の手がそっとマリアの胸に触れてる……』
「あ…隊長……そ…そんな……」
まるで魔法にかかったようにマリアはまるで本当に大神にそうされているような気がして、戸惑っていた。
『マリア、手を胸に当ててごらん。』
言われるままにマリアは自分の手のひらをその胸に当てる。それを確認したのか大神の声がさらに続いた。
『ほら、やさしくマリアの乳房を撫でているよ。』
大神の言葉のまま、ゆるゆるとマリアの手のひらが自分の胸をなで始める。
『撫でるだけじゃないよ、ゆっくり揉んでる。ああ、かわいい乳首が立ってきた。つまんじゃおうかな。』
「ああッ……」
言われるままに自分の胸を愛撫していた指が、乳首をはじき、マリアは尖った声をあげた。
『かわいいよ、マリア感じてるんだね。ブラウスも下着も邪魔だよね、取っちゃおうよ。』
さすがに着衣を脱ぐことはなかったがマリアは自らブラウスをたくし上げ直に胸を愛撫する。すでに、息はあがり、姿勢を保つことも出来ずにイスの背もたれに身体を預けていた。
「ああ……隊長……」
『マリア…俺の名前を呼んで。約束したよね。』
あくまでも大神の声は冷静なままだ。でも、それはマリアにとっては魔法の呪文だった。
「はぁ…一郎さん……」
名前を呼んだだけなのに、自分の女の部分が熱く濡れていくのをマリアは感じていた。
『そろそろ、マリアの下の唇に触れたいな。』
見透かしたような大神の言葉にマリアは右の手をそっと下腹部へと滑らせる。その感触に大きく身体が撓った。それでも手はまるで別の生き物になってしまったかのように、マリアのスラックスのボタンをはずし、そのまま中へと滑り込んでしまった。
「あッ…」
パンティの上からそっと触れるとそこはすでに熱い蜜で溢れていた。薄い布の上からでも固くなっていることがわかる。
『どう?マリア。君の芽は固くなってる?』
「は…はい……ああ……」
『気持ちいいかい?もっと気持ちよくしてあげるよ、ほら、指で強く擦って上げる。』
言われるままにマリアの指が激しく芽を擦り上げると、熱い吐息と尖った声しか発せなくなる。
『もうイキそう?』
マリアは相手がキネマトロンの向こうだということも忘れてただ声もなく何度も頷く。その間もすでに自らの手を止めることはできずにただ、追い立てる。

 その時だった。
「れーーにーーー。お散歩行こうッ。フントのお散歩。」
廊下に響くアイリスの声にマリアはふと我に返った。読書をしていただけだから部屋に鍵はかかっていない。
向かいのレニの部屋のドアが開く音がする。
「あ…だめ……アイリスが…レニの部屋に…鍵を…かけなきゃ…」
『鍵?かかってないの?じゃあ…声を出さないようにしなきゃね。』
大神の言葉に頷き、マリアは左手で口を塞いだ。右手はその間も泊まることなく動き続けている。声を出せなくなったぶん、感覚が鋭くなり、マリアは断続的に身体を奮わせる。
 そんなこととは知らず、部屋の外ではドアが閉まる音がして、2つの軽い足音がパタパタと遠ざかっていった。しかし、マリアにはそんなことはもうわからなくなっていた。ただ、熱を沈めるために指だけが別の生き物となってうごめき続けていた。
『マリア…かわいいよ。ああ、俺もイキそうだよ。最後に声を聞かせて。』
大神の声が響く。
「ああ…い…いち…ろうさん……ああ……」
名前を呼んだ時、マリアの身体にひときわ大きな快感が走った。大きく反り返り、そのあとずるずるとイスに崩れ落ちた。


「一郎さん…ひどいです……」
まだ息があがったまま、マリアは呟いた。その目は羞恥からか涙が溢れている。
『ごめん…でもうれしいな…マリアが俺の声であんなに感じてくれて。』
「…私の身体が一郎さんのすべてを覚えてるんです…あんな風に言われたら……」
マリア恥ずかしそうに俯いた。
『本当にごめん。埋め合わせはクリスマスにするよ。』
「クリスマス?」
驚きにマリアは顔を上げた。
『うん。クリスマスから1ヶ月、そっちに戻れることになったんだよ。』
「本当ですか?」
『ああ。今日はそれも伝えたくて通信したのに…悪いことしちゃったね。』
「いえ…その……クリスマス…楽しみにしてます。」
「ああ。」
マリアはそっとキネマトロンにうつる、愛しい人に口づけた。

End


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