二人のSilent Night


「ああ、とうとう帰ってきたんだなぁ…」
大神は甲板の上から横浜の街並みを見つめながら呟いた。やがて船は大きな岸壁にゆっくりと接岸した。軍艦ということで基本的に帰港時間は極秘。出迎える人もまばらなその中に大神は懐かしい、そして一番会いたかったその人の姿を見つけた。
 ここまで乗せてもらった乗務員の将校達への挨拶もそこそこに大神はその人の元へと向かって駆けだした。
「マリアッ!」
「…おかえりなさい。隊長。」
別れたときと変わらないまぶしい笑顔で迎えてくれたマリアがそこにはいた。大神はそんなマリアを思わず抱きしめた。
「ただいま…マリア…」
マリアは小さく頷いて大神の肩に顔を埋めた。


 二人を包む横浜の街は数日後に迫ったクリスマスムードでにぎわっていた。
「いつの間に日本でもこんなにクリスマスを祝うようになったんだろう」
「ここは特別ですよ。元々外国人が多い土地柄ですから、特に盛大なようですね。帝都はこれほどではありませんから。」
「そうなのか…確かにこの辺はハイカラな建物が多いもんな。」
「ええ。せっかく久しぶりに日本に帰ってらしたのに淋しいんじゃないですか?」
「うーん。でもやっぱりなんていうのかな。空気が違うっていうかな……やっぱり懐かしいよ。」
「うふふ、そうかもしれないですね。」
「ところでせっかく横浜に居ることだし、前に行ったカフェバーにでも行ってみないかい?帝劇に帰ったらゆっくりマリアと話すこともできなくなりそうだし。」
「あ…そのことなんですが…」
マリアは突然頬を紅く染めて俯くとポケットから一通の封筒を取り出した。
「これを…かえでさんから預かってきました。」
「かえでさんから?」
中には大神が巴里へと出発する前に泊まった想い出のホテルの宿泊券が入っていた。
「これは…あのホテル…」
「イヴには今年もクリスマス特別公演があって…帝劇ではゆっくり話もできないだろうからと…少し早いクリスマスプレゼントだっておっしゃって…」
宿泊券に同封された楓の地模様のはいった一筆箋には
「Merry X'mas 素敵な夜を過ごしてね」
と書かれていた。
「どうしましょうか…隊長…」
「そうだなぁ…せっかくのかえでさんからのプレゼントだしな。ありがたくいただこう。それともマリアは俺と一緒に一足早いクリスマスを過ごすのはイヤかい?」
「そんなこと!」
意地悪な大神の言葉にマリアは思わず顔を上げた。しかし目の前ににっこりと笑う大神を見つけて、また俯いてしまった。大神はそんなマリアの肩にそっと手をやるとそのまま引き寄せた。大神の肩に顔を埋めながら、マリアはそっと続けた。
「…そんなこと…ないです。隊長と一緒にいたいです……」
「マリア……」
大神はそっとその金の髪に口づけた。


 中華街で食事を済ませた二人は時間を惜しむようにそのままホテルにチェックインした。
 部屋に入ると二人はどちらからともなく固く抱き合った。
「…会いたかった……」
浅く深く口づけを交わしながら大神が歌うように言われ、マリアはただうっとりと瞳を閉じて頷いた。
マリアの手がおずおずと大神の背に回される。それを合図にしたように大神の舌が深くマリアの唇を犯した。マリアはやっと手にした宝物を無くすまいとその指に力をこめた。
「はぁ……」
ようやく唇がはなされると二人はただ甘い溜息をつく。再び口づけを交わしつつ、ただ抱き合っていた。すでに二人の間に言葉はいらない。触れ合った部分から想いが溢れていく。それだけで心臓は早鐘のようになり、動くことさえままならない。
「いち…ろ…さん……」
やっとの思いでその名を呼んだマリアは自分がこんなにも大神に飢えていたことを改めて思い知らされた気がした。それは大神も同じだった。自分を呼ぶマリアがただ愛しくて抱く腕に力を込める。はだけたブラウスの下を指がわずかに滑るだけで切ない声を上げるマリアを見ているだけで大神は自分が高ぶっていくのを感じていた。
 お互い、好きだという気持ちはとうにわかっていた。でも、こんなに自分以外の人を狂おしいほど求めるなんて。二人は今、人を愛するという本当の意味を知ったのだ。
 背中に回した大神の手がゆっくりと下へとすべりおりるとマリアはたったまま身体を大きく撓らせた。
「ああ……だめです。…こんな………」
足に力が入らなくなって崩れ落ちそうになるマリアの腰を強く抱き寄せ、そのまま壁に押しつけると再び口づけを交わした。
「マリア…ごめん……でも…もう我慢できそうにないよ。」
耳をなぶられるように言われるとマリアも同意するように頷いた。それを見た大神はそのままゆっくりとマリアの右足を抱え上げると中へと自身を埋めていった。
「ああ……ッ」
マリアの口から尖った声があがった。
「ごめん…ごめんよ…マリア……でも…」
つぶやくように言う大神の首にマリアは腕を回すとそのまま引き寄せ、口づけた。不自然な体勢に身体は悲鳴をあげていたが今のマリアにとってそれよりも大神と一緒の今こそが貴重なモノに感じられていた。大神から与えられるモノはすべて受け入れたい。愛情も悦楽も時に痛みさえも…それがマリアの望みだった。

「………リア…マリア………」
自分を呼ぶ声にマリアは目を開いた。目の前に心配そうな大神の顔。ゆっくりと当たりを見回すとマリアはベッドの上に横たわっていた。
「隊長?…私……」
「気を失ってたから、ベットに運んだんだけど。…ごめんよ、つい…その……」
申し訳なさそうにしている大神にマリアは微笑んでゆっくりと腕を伸ばし引き寄せると口づけた。
「いえ…私も…同じですから。でも、その…お願いが……」
「なんだい?」
「せめてシャワーを浴びたいのですが……今日はずいぶん歩き回りましたし…」
頬を染めて俯いて言うマリアがかわいくて大神はその額に軽く口づけた。
「ああ、いいよ。じゃあ準備してくる。」
「いえ、そんな自分で……」
あわててマリアは起きあがった…つもりだったが、すぐにベッドに逆戻りしてしまった。
「ちょっとまってて、バスタブにお湯を入れてくる。」
微笑んで大神がバスルームに消え、水音が聞こえてくるとマリアは小さく溜息をついた。
ゆっくりと部屋の中を見回してみる。生活感のないホテルの部屋。そのベッドの上にいる自分はすでにはだけたブラウス一枚の状態だ。なんとなく所在なくて、マリアは傍らにあった枕を抱きしめた。大神はまだ戻ってはこない。抱きしめた枕にそっと頭をもたせかけマリアはぼんやりと大神とこの部屋で結ばれたあの夜のことを思い出していた。
(あれからまだ1年も経ってないのね……でも、もうずっと昔のことのような気がする…)
大神を巴里へと送り出したあとの日々が走馬燈のようにマリアの頭をかすめていった。大神のいない淋しさに耐えきれず、一人で泣いた夜もあった。でも今はこの同じ部屋の中に大神はいる。夢にまで見た愛しいその人が。マリアは枕を抱きしめた手に力を込めた。
「…一郎さん………」
マリアは唱うように呟いた。
「なんだい?マリア。」
ふいに答えられてマリアは頬を真っ赤に染めて枕に顔を押しつけた。そんな様子に微笑みながら大神はそっとマリアの隣に腰をおろすと、枕ごと抱き寄せその金の髪をそっとなでた。
「どうしたの?俺を呼んでくれたんじゃないの?」
大神の問いにマリアは顔を埋めたまま首をふった。
「一人にして淋しかったかな?ごめんよ。」
髪にキスされるとマリアはビクンと身をふるわせた。
「お風呂の用意ができたよ。一人で入れる?」
優しい問いかけに小さくうなずいてマリアは大神に目を合わせないままで立ち上がった……つもりだった。しかし、まだ足にうまく力の入らないマリアの身体がふらりと倒れるのを大神が受け止める。
「すみません……私……」
「いいよ。つれていってあげるよ。」
そう言うと、大神はマリアを抱え上げ浴室へとつれていった。そしてお湯をたたえた洋風の大きなバスタブの横にそっとおろした。
「ありがとうございます…あとは自分で…」
大神は恥ずかしそうにシャツの前をつかんで俯くマリアをしばらく黙って見つめていたがやがてゆっくりと近づくとそっとその髪に触れた。
「……お風呂でおぼれないか心配だな…」
大神の手のぬくもりを感じてますます動けなくなるマリアの手にそっと触れ、耳元にくちづけるように囁く。
「やっぱり、俺が入れてあげるよ。」
マリアは恥ずかしさにただ首を横に振るが、身体は想にもうまく動かない。
「ね、だからシャツを脱いで…。」
マリアに抗うすべはなかった。呪文のように響く大神の声に従うように指の震えに何度も失敗しながらようやくボタンをすべてはずすとゆっくりとシャツを脱いだ。
「よくできたね。」
ご褒美だとでもいうように大神はその髪にくちずけた。緊張が解けたようにマリアの身体がバスタブにもたれるように崩れ落ちた。


 まず大神は優しくマリアの金の髪を洗ってやった。所在なく座り込んでいるマリアのうえに心地よい温度に設定されたシャワーがふりそそぐ。
「綺麗な髪だな絹糸みたいだ。」
目に入りそうになる雫を避けようと、ほんの少しだけ身じろぎをしたマリアの首筋に、先ほどから飽きることもなくマリアの髪をすき続けていた大神の指が触れた。
いつもは全く気にすることもない、知らない人のようなその無骨な感触に思わず身体を傾ける。
「あの…一郎さん………もう…大丈夫ですから…あとはひとりで…」
「ん?そんなとこにいつまでもいたらせっかく暖まったのに冷めてしまうよ。」
立ち上がろうとしたマリアの肩を大神は肩を押さえて座らせた。そして、手を下に滑らせるのに逃げようと、マリアは反射的に大きく身体を動かした。
「ほら、ジッとしてて。」
大神はそれを引き戻しまた手を丁寧に滑らせる。大神の手が動くたび、マリアの鼓動はどんどん早くなっていく。
マリアは耐えられずに大神の手にすがりついた。
「本当に大丈夫ですから……おねがい……もう…」
熱い吐息を混じらせそういうと、大神の手にすがりついた。
「どうしたの?マリア?」
「おねがい…します……もう……ああん、だめ、一郎さん」
マリアの手に力がこもる。大神は口元に笑みを浮かべその手をそっと取るとマリアの身体を反転させて後ろからそっと抱きしめた。
「はあ……」
マリアは大神の肩に頭を乗せると小さく息をついた。そんな、マリアの髪にそっとキスをして大神はまたもその身体を洗い始めた。
「あ、一郎さんっ。」
後ろから回された大神の手のひらがシャボンの力を借りてマリアの乳房の上を動き回る。すっかり堅くなった乳首をかすめるように触れられてマリアは大きく身体を撓らせ、声をあげる。
「ああーーっ」
「どうした?マリア?」
大神はそっとその耳たぶにキスをする。マリアの身体がビクンと硬直する。その間も大神の手のひらは相変わらずマリアの胸の上を滑り続けている。そして、大神の指の先が、手のひらが乳首を掠めるたび、マリアは声をあげて大きく身体をふるわせた。
「もう…許して…早く……」
「早く?何をだい?」
せっぱ詰まったマリアとは対照的に大神の声は相変わらず穏やかで優しい。しかし、今のマリアにとってはそれは残酷に響いていた。大神が欲しい。その一言が言えずに、マリアは唇を噛んで俯いた。そんなマリアの様子に業を煮やして、大神は片方の手をそっと下へ滑らせた。すでに力の入らない足をこじ開けると内股をゆっくりとなでさする。
「だめっ…そんな…一郎さん…いや…早く…」
「言ってくれなきゃわからないよ。」
「一郎さんが……ほしいの…はや…く、もう……」
マリアの答えに満足したように大神はマリアの腰に手を添えるとそのまま自らの上にマリアをおろした。
「やぁぁぁぁぁ。」
マリアの身体が大きく撓った。そしてゆっくりと大神の胸の中へと落ちていった。


「ん……」
ひとり、マリアはベッドの上で目を覚ました。大神の姿を探すようにゆっくりと頭をめぐらせた。大神はひとりソファーに座って煙草を吸いながら窓の外に広がる夜景を見つめていた。
「…たい…ちょう……?」
小さく呼ばれて大神が振り向くと、マリアはまだ焦点があわないのか視線を泳がせながら、手を伸ばしている。
大神はそっと微笑むとゆっくり立ち上がり、ベッドの脇に腰を下ろしその手を取った。
「気がついたかい?」
「…あの……わたし…いったい…」
「お風呂で気を失ったんだよ。」
「…えっ………?」
「ああ…ごめんよ……いじめちゃったかな?」
「いえ……」
ゆっくりといたわるように大神の大きい手がマリアのそれを包み込む。
「ごめん…マリア………」
大神はその手を引き寄せるとそっとその指に口づけた。
「…んっ……」
マリアが小さく声をあげた。それに気づかないのか大神はマリアの手を優しく撫で続ける。その感触にマリアはただ耐えるしかなかった。大神の手がマリアのそれにゆっくりとくみ合わさる。
「ッ………」
思わず声が漏れそうになってマリアは唇を噛んだ。ようやくマリアの異変に気づいた大神はもう一方の手をそっとマリアの唇に滑らせた。
「どうしたの?こんなにしたら唇を傷つけてしまうよ?」
大神の指は触れるか触れないかぐらい強さで、上唇から下唇へと動き回ると観念したよう唇を開いて熱い息を吐いた。
「あああ……」
開いた口の中に大神は指を差し入れ、今度はその歯を撫でる。
「どうしてもっていうなら、俺の指を噛めばいい」
「あうっ……ふぁ……」
そんなことできないとでも言うようにマリアは必死に首を横に振る。その間もマリアの手のひらを覆った大神のそれは動き続けていた。
「細い指だ…この指があのエンフィールドを支えてるなんて信じられないな…」
指を1本ずつマッサージするように揉み、撫でられてマリアは大きく弓反りになる。大神はその手を引き寄せるとそっと人差し指の先を口に含んだ。
「ふぁ…」
マリアの身体がビクンと大きく反りそのままガクガクとふるえる。大神はわざと音を立てて指の先をしゃぶり、舌でつつくようになぶった。
「ううっ…ふぁ…あああっ……た…たい…ちょう……だめ…やめ……あああっ…」
首を振っていたため、いつしか大神の指から解放されたマリアの口からはすでに言葉を紡ぐことはできす、もどかしい快感に喘ぐ歓喜の声が響いているだけだった。

 どのくらいそうしていたのか、マリアの声は甘くかすれ、ただ大神を求める吐息だけを発していた。
「はぁ……い…ち…ろぅ…さ…ん………」
マリアはすでに焦点の合わない視線で大神を捜し求め、その手を宙空へとさしのべた。
「ここにいるよマリア。さあ…」
大神はその手を引き寄せると素早くマリアの下に身体を滑り込ませた。いきなり仰向けに横たわる大神の上に座るような形にされて、マリアの身体はゆらりゆらりと不安定に揺れている。
「マリア、おいで。」
そんなマリアの腰に手を添えて、大神はそのまま自身を楔の替わりだとでも言うようにマリアの中へと突き刺した。
「あああああああああっっっ」
そのあまりに強い刺激に声をあげてマリアは身体を大きく撓らせた。次の瞬間がくんと前に倒れ込みそうになる。マリアは一時的に気を失っていた。しかし、大神はそれを許さないとでも言うようにマリアを支えながら下から何度も大きく突き上げた。
「あっ、やっ、ああっ!」
そのたびにマリアは大きく身体を揺らし、髪を振り乱し、大神を感じていた。
「はうっ、ああん、いち…ろ…さ………ん、ああっ」
繋がった部分から溶け合ったような不思議な一体感を覚えていた。いつもより深いところに絶え間なく打ち込まれる楔に、マリアは酔いしれ、ただ溺れ、そしていつしか眠りに落ちていった。

 

 ボーーッ
 遠く響く汽笛の音にマリアは目を覚ました。窓の外はまだ暗く、まだ夜明けの気配すら感じられない。
 マリアは隣で穏やかな寝息を立てる大神を起こさないように、汗で湿った前髪をけゆっくりと掻き上げた。
「あ……」
ふいに二の腕の裏側に花びらのようなピンクの痣を見つけ、マリアは小さな声を上げた。
(これは………)
さっき大神がつけたキスマーク。マリアはそっと痣を指でなぞってみる。そうするだけでさっきまでの二人の熱い行為を思い出し、マリアは小さく身震いした。気がつけばマリアの身体にはいくつものピンク色の花ビラが散らされていた。マリアは大神の唇の感触を思い出すかのように、その跡を指でたどってみる。いつしか、マリアの指は大神のそれに替わり、愛撫されてるように錯覚させてマリアは少しずつ息が荒くなっていくのを止めることが出来なくなっていた。自らそっと秘所に手を伸ばしたものの、大神に抱かれたばかりの身体はそれでは満足できなくてただ、せつなくなるばかりだった。
「…いち…ろうさん……」
思わずマリアは呟いた。
「なんだい?マリア。」
その声にマリアは弾かれたように指を外した。
「…た…隊長ッ!」
見られてしまった。浅ましい自分の姿を。マリアは慌ててブランケットを引き上げて大神に背を向けた。
「…見ないでください……お願い見ないで………」
あまりの恥ずかしさにマリアは涙を流しながら、絞り出すように言う。
「ごめん、あんまりマリアが可愛かったら、つい声をかけそびれちゃったよ。」
「いつから…いつから見ていらしたんですか?」
「ほんの少し前。君が俺の名を呼ぶ少し前から。キレイだった…だから声をかけられなかった。」
「…そんな……そんな………うそです。私なんか…こんな浅ましいオンナの事なんか嫌いになったでしょ。」
ただ、泣きじゃくるマリアを後ろからそっと大神は抱きしめた。
「そんなこととあるわけないじゃないか……」
そしてその耳に囁く。
「俺を想ってそんな気分になっちゃったんだろ?…うれしいよ。マリア。」
チュッ。とわざと音をたてて大神はマリアの耳にキスをする。
「でも、こんな所にも跡がついてるなんてしらなかっただろ?」
肩胛骨の間だのあたりをそっと撫でられ、マリアは大きく背を撓らせた。
「だめ……いやです……隊長………」
マリアは腕を回して大神の髪を掴んだ。ひきはがそうとしたはずのその手は力無く大神の髪を撫でるだけになっていた。
「違うよ、一郎だろ?」
そう囁いてその耳を愛撫される。ぺちゃぺちゃという濡れた音に身体を弛緩させたマリアは大神にすべてを預けた。大神の指はゆっくりとマリアの身体の上を這い回り、もう一方の手がそのまま秘所へとのばされた。
「俺を想ってひとりでこんなになっちゃたのかい?うれしいな…本当に。」
マリアは何か答えようとするがその声は熱い吐息に変わる。
「はぁ…すみません……私…わたし……ああッ……もう許して……お願い、一郎さん。」
やっとの思いでそう言うマリアに満足したように、大神はそのままそっと身体を重ねた。
「あッ……はぁ……」
自分の奥に大神を感じたマリアは充足感に包まれて、そのまま意識を失った。
「まだ、イクのは早いよ。」
大神はマリアの耳たぶを強く噛んだ。と、同時にマリアを深く穿った。
「アアッ!」
現実に引き戻されたマリアは大神が与え続ける激しい奔流に飲み込まれていった。


 窓の外がすっかり朝の色に変わった頃。
 大神の胸に頭を乗せて、マリアはただその鼓動を聞いていた。そんなマリアの髪を大神の手が優しく梳いていた。
「マリア…」
口を開いた大神をマリアはそのままゆっくりと見上げた。
「君に言いたいことがあるんだ……マリア…その…ずっと考えていたんだけど……俺と…」
言いかけた大神の口をマリアの人差し指がシッというように遮った。
「それ以上は何も言わないでください……私は……私はこのままで…このままで幸せです。こうやって一郎さんと一緒にクリスマスを祝える…それだけで…」
「マリア…?」
「これ以上の幸せなんて…考えられないんです……」
小さいけれどはっきりと言うマリアに大神は何も言い返すことはできなかった。
「だから…このまま……お願いします、一郎さん。」
そう言ってマリアは大神の胸に顔を伏せた。大神はしばらく考えるようにマリアの金の髪を撫で続けていたがやがて、
「わかった。…メリークリスマス、マリア。愛してるよ。」
大神の答えにマリアは再び顔を上げるとまぶしいばかりの微笑みを浮かべた。
「私も…愛しています。メリークリスマス。一郎さんに神のご加護があらんことを…」
そして、身体をのばすと、愛する人にそっとくちづけした。


Merry X'mas