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よいがたり1

 親の都合で、真神学園高等学校に転校することになってしまった。こんな時期に転入とあって、俺を見るクラスの奴も興味ありげな目をしている。
 まずは、担任というマリア先生の言う通りに、黒板に自分の名前を書いた。
 [杉倉 秋将]
 ふりがなもきちんと付けて置いたから、これでいいかな?
 挨拶をして、深々と柄にもなく頭を下げる。頭を上げる前から、高めの声が飛んでくる。
 ん?質問?ちょ、ちょっと待て、なんか勢いのある奴が多いなぁ…
 面食らってしまった俺に、マリア先生が助け船を出してくれる。
 うまくやって行ければ良いんだけど、俺。
 とりあえず、この学校では喧嘩は無しにしよう。明るく過ごした方がいいもんな。

 休み時間になって、やることもなくてぼーっとしている俺に話し掛けてきたのは、クラス委員兼生徒会長の美里 葵。
 色白な肌に綺麗な黒髪。典型的な日本美人だし、穏やかな表情がとても綺麗に見える。
 噂を聞くと才色兼備…所詮高嶺の花だろうな。そう思っていると、すぐに挨拶をしなかったことを謝ってくれ、俺が不自由しないよういろいろ気を使ってくれる。
 なるほど、騒がれるって意味が解った。美人な上に、細かなところまで気が利くんだ。
 こちらに見せてくれる笑顔と対照的に、教室の端から冷たい視線が刺さってくる…既に、クラスメイト野郎共の何人かは敵に回してしまったらしい…うーむ、恐るべし。
 いろいろ学校の話を聞いている間に入ってきたのは、桜井 小蒔。どうやら、美里さんとは親友らしい。美里さんもずいぶん楽しそうに、話し込んでいる。
 あ、俺に何か用?

 …………
 へ?
 …………何を言われたんだ?俺。えーと…
 どんがらがっっしゃん!
 俺は、景気良い音を出して、椅子から落ちた。先ほど敵に回したらしい奴等から、笑い声が聞こえる…てめぇら、後で覚えてろよ。
 おっと、まだ桜井さんと話の途中だった。慌てて、今までの話を頭の中で再生する。
 あ、あのなぁ…いきなり、そういう事を聞くなよ…好みだけど。
 自慢じゃないが、今まで行ってた学校は男子校で、長らく縁がなかったんだ。
 あっても、稽古の途中だし、そういう事はなれてないんだ。

 ん?良い線いくって?
 そ、そうか?頑張ってみるよ。
 彼女にそう答えて落ち着いてみると、ショートカットが似合ってなかなかの美人。
 結構、この学校レベルは高いぞ。

 桜井さんが立ち去ってから、別の方からも声が掛かった。
 蓬莱寺 京一とかいう奴で、目立つなって忠告をしてくれる。
 良い奴みたいなんだが…手にしている木刀といい、俺はお前の隙の無さの方が恐い。絶対何かやってるよな。
 俺がそう思いながらぼけっと話を聞いてると、学校案内までしてくれるらしい。口は乱暴だが、意外にまめな奴かも知れないな。後輩とかに慕われそうな感じだ。横暴だけど。

 俺とも趣味が合いそうだし…いかん、つい本音が出てしまった。
 うん。これはよい学校だ。

 夕方、蓬莱寺に関わるなっていわれてた、不良の一人に声をかけられる。
 そのときちょうど、遠野…蓬莱寺が案内してくれたときにぶつかってきた新聞部の部長だが…と話してるときだったし、どう見ても喧嘩腰だったんで、さっさと終わらせようとしたのだが、無駄だったらしい。
 そのままずるずると体育館裏まで引きずって行かれて、一昔前のドラマで聞いたような脅し文句を聞く。
 勿論、真剣に聞く義理は俺にはないし、どうせここまできたら、もう喧嘩は避けられない。どうせだったら、怒らせるに限る。そうすれば、俺の出す技も解らないだろうからな。
 …やっぱり怒ったか。よしよし、予定通り。
 いざゆかんと思った途端、声が頭の上から振ってきたんで、振り返る。

 やっぱり、一昔前にテレビで見たような光景が頭上にあった。木の上で気持ちよさそうに寝ている人物。そいつが不良共に声をかけてきたんだ。
 確か…蓬莱寺だったよな。あの木刀は見覚えがある。
 あ、こいつ声をかけるタイミングはかってたな。声が期待で弾んでるように聞こえる。

 そうだよな…腕に覚えがあるなら、こんなおいしい場面は逃したくないだろうなぁ。
 俺一人労働して、見学させるのもしゃくだし…ま、俺の見せ場もってかないくらいに遊んでくれればいいや。

 俺は無言で了承を告げると、迎撃の準備が整ってない奴等の懐先に飛び込む。
 こいつらに俺の技なんか解るわけがないから、習い覚えた技をそのまま使っても良かったんだが、隣にいる蓬莱寺が気になったので、多少俺なりの喧嘩技に変化させる。
 打ち込んできた相手に接触する前に、二段蹴りを蹴り込んでやる。
「龍星脚!」
 そう技の名前を披露する。わざと周りに聞こえるように大きな声で。
 その技を喰らった奴は、そのまま体を畳むように崩れてうめく。
 当分立てないだろう。技を受けたときに、どうせお星様が見えたろうし…我ながら、いいネーミングセンスだ。うん。
 喧嘩の時に一番に大技を出して相手をひるませる。どうやら、今回は成功したらしい。
 相手の気が弱くなるのを感じると、そのまま何人かを叩きのめして、佐久間に掌底を数発たたき込んだら、やっと倒れてくれた。
 あの不良どもを束ねてるだけあって、打たれ強かったぜ。

 大した時間もかからなかった喧嘩を自己評価して、後ろを向くと俺と同様に涼しげな顔をしてる蓬莱寺がいた。
 礼を言ってその場を去ろうとしたら、こちらに向かってくる人がいる。
 一人が美里さんに…このごつい男は?
 醍醐 雄矢?レスリング部の部長で、どうやら、さっきの佐久間はこいつの知り合いだったらしい。 自分のせいだと言って謝ってくれたが、筋が違ってたんで、気にしないように伝える。
 で、なんでここが?と言う顔をしたら、美里さんが教えてくれたそうで…嬉しいんだけど…出来れば、こういうやばい光景は見せたくないんだが…
 どう言ったものかと思案してる間に、蓬莱寺と醍醐は何か話を続けていた。
 いつの間にか二人とも、俺の方を見てにやにや笑ってる。
 背筋が寒くなる。
 出来ればあいつらも負けたことだから、黙ってくれるだろうし、このまま平穏に過ごしたかったんだが…
 あーあ。また師匠にばれたら、怒られるんだろうなぁ…とりあえず、今度このメンバーに口止めしておかないと…

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