火群
「情けないよなぁ…こんなにも奴のことが気になるなんて…」
頭を抱えなおして、腕の隙間から見える窓の先に目を凝らす。
二時三十一分。
隣にいる雛乃が気になって目をやるが、起こしてしまった様子はなくてほっとした。まだあいつと出会ってから、一月も立っていないのに、何故か気がつくと奴のことばかり気にしている。
役に立つって言ったのも確かだし、実際戦いではいつも声がかかる。
でも本当はどうなんだろう?
本当にあんたの役に立ってるか?
誰の代役でもないって、胸を張っていって良いか?
口先だけの奴だとは、あいつにだけは思われたくない。
稽古もやってるつもりだし、日に日に出来ないものが出来るようになってくる。
だけどあいつの背中はそれ以上に早く、オレの前から消えていくような気がして、いつまで立っても隣に立てる気がしない。気が付くとあいつの背中を探して、いつも遠くの方に目を凝らす。 気が付くとあいつの声が、聞こえるように息を殺す。 全ての感覚が、あいつの存在を探している。
これは恋愛じゃない。
オレはただ恋い焦がれてるだけ。
将としてのあいつになのにこれほどまでに…
せつないのは何なんだろう?
あいつの喜ぶ顔が見たいのに、見るのはいつも奴の悲しそうな顔だけ…
それを癒せるのはオレじゃない。
戦闘では蓬莱寺の奴が。
普段では美里が。
彼の側に居るんだろう?彼の力になってるんだろう?
なのに、なぜこんなに苦しいんだろう?
オレの役割じゃないのに…このところ、よく眠れない。
以前ならば床を抜け出して、稽古をすれば闇など消えた。
なのにこの闇だけはどうしても消えない。
闇の中の火群だけは…自分には消せない。
・後書き
久々の雪乃さん(笑)
語り物です。火群というのは嫉妬とか言うものを指すようですが、ちょっとイメージを変えてみました。
自分では理解できない衝動を書ければいいのですが…